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夢を見た。それは卒業式の時の夢で、私と湊は式が終わった後、部活仲間に挨拶に行った千歳を待っていた。
「卒業式でも変わらないね」
「そうだね。でも、嫌いじゃないよ、こうして待つの。教室で待ってる時も、二人で本を読んで、時々お話して、そのうち千歳ちゃんが疲れた顔してお待たせって教室に来て」
海風は穏やかで、暖かい。校庭には、別れを惜しむ声があふれていた。私たちはその光景をぼんやり見つめていた。
「好きだよ」
唐突に、湊が言った。
「私もだよ」
そう返した。
「千歳ちゃんに対する好きとは違うよ」
湊が少しおかしそうに言った。
どういうこと? と私が湊の方を向くと、湊は自分の唇に指先を乗せ、その指で私の唇をつつく。
「こういうこと」
湊は今まで見たことのない悪戯っ子みたいな顔で笑う。
「みさきちゃんが東京に行く前に、きちんと思いを伝えたかったんだ。それだけ」
私は何も言えず、ただ頬を赤くして湊から目をそらすことしかできなかった。そのうちに千歳が戻ってきて、赤くなっている私を見てなにかあったのかと聞いてきたのだけど、言えるはずもなく、私はあれやこれやとごまかしの言葉を並べ立てていた。
そんな私たちの手を湊が握り、楽しいね。と言った。私たちは三人で笑い、そのまま手を繋いで帰った。
大事な思い出。ただ楽しくて、満たされていた。
手を繋ぎ歩いていく三人の背中が遠くなる。そこで私は、これが夢なんだと思いだし、目を覚ました。
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