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身支度を整え、千歳と千歳の両親と共に民宿を出た。
「昨日、卒業式の時の夢を見たよ」
今日は運転を千歳のお父さんがしており、助手席には千歳のお母さんが乗っている。私と千歳は後部座席に並んで座っていた。
「懐かしいね」
「東京に出て、色々と得るものもあったけど、私はいつもよく分からない悲しさを感じてた。千歳は私には東京が似合うなんて言ってくれたけど、全然だよ。東京で学べることもあるけど、ここでも学べることはあったんじゃないかなって考えることもある。でも、それは結局悲しいから気持ちを誤魔化したいだけ。カッコ悪いね」
千歳は私の話を黙ってきいてくれていた。いつも通りの、昔と変わらない優しい笑顔で。
「心に穴が開くと、なにをしていても退屈に感じちゃうんだっけ。みーちゃんが言ってたよね」
「覚えてたんだ」
「印象的だったから。みーちゃんがはっきりと意見を言うって珍しかったし。だけど、みーちゃんはちゃんと考えてたんだよね。いつもちゃんと考えてた」
「うん。私たちの中で一番大人だったのは、湊だったんだ」
今まで私は故郷に帰らずにいた。帰ることが逃げることのように思えたからだ。でも、そうじゃない。逃げずにいることが強いというわけではないんだ。一番大切なのは、自分の心なんだ。
私は、帰るべきだった。
湊に、ただいまと言って、手をとり微笑みを交わすべきだった。
車が目的地にたどり着いた。記帳し、会場に入り、湊の両親に挨拶をした。メールでやりとりをしていたにも関わらず会いにこなかったことを詫びた。だが、湊の両親はそれを責めるようなことはせず、こうして最後に会いに来てくれただけで充分だと言ってくれた。
「湊」
千歳と共に、棺の中の湊に話しかける。少しやせてはいたけれど、湊はあの頃とほとんど変わっていないように見えた。
隣で千歳が泣いている。私の目からも涙があふれている。
「みーちゃん、いつもみさきちゃんのことを話してた。病気が悪化して、寝ている時間が増えた後も、みさきちゃんのことを話すときはいつもにこにこしてて」
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