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「あはは・・・。君の考えていることはわかるよ。オープンしたと言っているのに、この古びた外観や内装、そして店先によくある新規開店の花輪が無いと思っているんでしょう」と店長は笑顔で言う。
沙希は申し訳なさそうに、「はい・・・」と小声で返した。
「あははは。いいのいいの。僕はね、派手なことは好きだけど、このお店のオープンはひっそりと始めたかったんだ。ひっそりと始めて、そして、なんの宣伝をしなくてもお客さんは来るのか。自分の運を試してみたかったんだ」と店長は言う。
沙希はもう一度、飾られている置時計を見つめた。そして、「運を試せていいですね・・・。私の運勢は最悪・・・。毎日、嫌な同級生に虐められて・・・」と思わず口走った。
「虐め・・・・?」
店長がその言葉を返すと、沙希は顔を高調させて涙が目に浮かび始めた。
「そのお気に入りの時計、もっと間近で見てみない?」と店長は沙希を誘う。が、沙希は首を左右に振った。
店長は困った顔を作ると、急に置時計の説明を始めた。
「その置時計はね、『人生時計』という名前で、人を幸せにする時計なんだよ。その時計を持っていた人達は、亡くなるまでずっと幸せだった。そんな幸せな人達と共に、その人達の人生と一緒に時間を刻んできた時計なんだ。だからさ、君にはずっとその時計を間近で見ていてもらいたいな」
「そんな話し、嘘ですよね・・・」と沙希は涙目で店長の方に視線を向ける。しかし、店長は首を左右に振りながら、「本当だよ。だって、さっきまでずっと、君もこの時計を見つめていたでしょう?その間、気持ちはどうだった?安らいだでしょう」
「それは・・・」
「もっと間近で見てごらん」
店長は沙希の手を取って店内に誘導した。沙希も、店長の人柄に安心感を感じ始めていた。
店内は明るい照明で、温かく感じられる。フワッと香る木の香りに沙希は刺激され、、気持ちが落ち着いていく。店内はそれ程広くは無いが、壁には焼いた木で作られた飾り棚が付けられ、その中には様々な物が飾られている。ガラスは全てが綺麗で、中の敷かれた黒い布にも汚れは見られない。
店の中央には木で作られた丸テーブルと椅子が三脚置かれている。そして、窓際には木で作られた長ベンチが置かれていた。
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