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翌日の朝。
早起きした店長は、まだ店を開ける時間でも無いのに、なぜか店を開けようと準備を始めた。
店の中の照明を点けて、入り口の扉の鍵を開けて外の空気を店内に入れる。すると、物陰から姿を見せた沙希が近づいてくるのに気づいた。
「あの・・・」と沙希は言葉を続けようとするが、何か戸惑っている様子だった。
「いいよ・・・。中にお入り」と店長は優しい口調で店内に入れた。
店の中は、空気の入れ替えで冷たい空気に満たされているが、沙希はコートを脱がずにそのま丸テーブルに座ると、「昨日の置時計を見せてください」と言った。
「うん・・・」と店長は優しくうなづくと、店先に飾られている人生時計を手にテーブルに戻ってくる。そして、沙希の目の前に静かに置いた。
人生時計はゆっくりと静かに時を刻んでいる。昨日と何も変わっていない。
「この時計を見ていると・・・、なぜか気分が落ち着く・・・。冷静に自分の人生を振り返ることが出来るな・・・」
「そうだね・・・。僕なんか、この時計と出会う前はシャカシャカと動き回っている事が多かったから、この時計の秒針を見ていると、本当、気持ちが落ち着いて幸せな気分に慣れるんだ」と店長は窓際の長テーブルに座りながら言った。
ふと、窓の外に視線を向けると、遠目から店の様子を伺っている女子高生に気がついた。
そして、その瞬間、ふとパンドラメガネを持って来ようという気になったのだ。
「ゆっくりしていてね」と沙希に声を掛けると、店の奥に入って行く。そして、厳重な金庫にしまったパンドラメガネを包んだ黒い布を手にすると奥から戻って来た。
店には人の声がする。店長が顔を出すと一瞬、その声が止んだ。見ると、沙希の他に三人の同じ制服を着た女子高生が並んで立っていた。
「へぇ~、君の友達かい?」と店長は沙希にワザと聞く。沙希は小さく首を縦に振った。
「そうか・・・」と店長は持っていた黒布を解いて、中から黒縁に茶色の汚れが付いたパンドラメガネを取り出した。
三人の女子高生は店長に向かって睨みつける。店長はその視線に臆せず、次の言葉を考えていた。
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