01

2/6
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「へえ編入……。大変だったなあ」  案内役を務める少女は、顎に手をやって呟いた。  少女と言っても今日からクラスメートになる人で、口調通りきりっとした顔立ちと、すらりとしながらスプリンターを思わせる長身は、実年齢より大人びた印象を与える。  この高校の制服がよく似合う人だと思った。濃紺のブレザーにストライプの入ったグレーのスカート。デザインは男子も同様で、スカートがズボンに変わるだけ。  長い髪を二つの髪留めで纏め、何故かスカートの下に七分になるよう裾を折った赤いジャージを穿いている。ジャージから覗くのはハイソックスなのかタイツなのか判別出来ないが、取り敢えず黒い布。冬でもあるまいしハイソックスか。足においては一切肌を出していない事になる。  ネクタイをしていない第一ボタンだけ開いた胸元と言い、全体的に少しラフな感じは、運動部を思わせた。ジャージがヤンキーと思われるかもしれないが、振る舞いがきちんとしていてしっかり者という印象しか無く、怖い所か大変頼りがいがある。同じ一七歳とは思えないぐらいだ。  現に約三〇分前の待ち合わせ時間に、一秒の誤差もなく現れている。 「案内役の一番合戦(いちばんがっせん)だ。何でも訊いてくれ」  一番合戦さんは気さくな挨拶と共に、肩から提げていたスポーツバッグを近場の席に投げ置いた。多分自分の席なんだろうけれど、かなり大雑把な扱いである。  僕は唐突だったのと座りっ放しは悪いと思い、慌てて席を立つと名を名乗る。 「は……はじめまして。九鬼(くき)です。今日はよろしくお願いします……」 「九鬼」  一番合戦さんは畏縮する僕の名を確かめると、さっぱりと笑った。 「うん。宜しくな」  挨拶もそこそこに廊下に出ると、学校案内が始まる。  二棟四階建て。公立高校だしそこまで広くはないけれど、初めての場所だと迷路のように見えてしまう。  多分一番合戦さんはいきなり全部教えても、覚えられないと配慮してくれたんだろう。通る教室から思い付いたようにぽんぽん説明するんじゃなく、僕達二年生がよく使う教室を中心に、使用する授業の内容を交えて教えてくれた。  これがまた簡素かつ頭に残る語り口、食堂や体育館の更衣室まで抜かりなく、もう秋だから使わないけれど来年は行くからと、プールの説明のオマケ付き。事務的な作業を一切感じさせない、実に充実したオリエンテーションだった。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!