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 先生の話もこれぐらい分かりやすかったら、誰も居眠りしないのに。  そして冒頭の、大変だったという台詞に戻る。 「まあ前の学校と、そんなに難易度は変わらない所を選んだから」  一番合戦さんが気さくな上説明上手だから、人見知りの僕には珍しく、早々に口調が砕けている。 「うーん成る程な。まあそれでも母校を変えるというのは、それだけで重大だろうに。キリよく始業式に来れたらよかったのになあ……むあ」  これはまた。  大きな欠伸で言葉が切れた。  結構人目を気にせず欠伸をする人らしい。何だか意外な印象だった。男勝りと言うより凛としており、女の子らしさはしっかりある人なので。大小のクリップ二個使いで髪を纏めている所とか。どう見ても朝から面倒そうなのにわざわざ二個使いというのが女子力高い。  クリップは黒の至ってシンプルなものだが、髪留めのデザインではなく、髪型へのちょっとした手間というさりげなさが粋を感じる。やっている事はただのフルアップなので媚を売るというか可愛らしさを演出するようなものでもないし、大人でも普通にするような髪型だ。寧ろ大人の方がやってると思う。中高生でフルアップをしてる女の子ってあんまり見ない。  どうなってるんだろう……? まずは耳の上の髪を両サイドから真後ろに纏め、捩じって作ったお団子を小クリップで留めている。残りの髪はがさっと一気に纏めて、同じように捩じって作ったお団子を大クリップで。シャツスタイルが似合う髪型だ。一七〇センチ近そうな長身だし凛としてるし、ブレザーが本当に似合う。  ってそうだ。  一番合戦さん、一〇月なんて変な時期に越してきた僕の為に、担任の先生から案内役を命じられてここにいるんだ。 「あっ……ごめん。今日もしかしてこの為に早起きして……」 「いんや気にするな」  一番合戦さんは、目を擦りながら手で制す。 「眠いからしただけだし、生理現象に謝意など要らんだろ」  そう笑ってみせた途端、「ま、案内人が心配させるのは失格だな」と自嘲した。  厳しい人である。あんなに上手だったのに欠伸で失格とは。この人のルールで生きていたら何回失格になるんだろう。 「まあそれはいいとして。お前、許可証を持っていたりするか?」  一番合戦さんは言いながら、腰に差した日本刀に手をやった。  一目で手入れが行き届いていると分かる、正に愛刀。
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