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シンプルなつくりだけど、朱漆塗りの鞘がすごく綺麗。
帯でも巻いて直接腰に差すと言うか、西部劇に出て来るガンベルトのような黒い革のホルダーを腰に巻いており、そこに収納されている様が時代劇でよく見る佩刀した状態に見えるのだ。
帯刀帯と言って、一本大体一八〇〇〇円前後。二〇〇〇〇円を持って行けば余裕で買える。消耗品なので、ここにお金をかける人は余りいない。
一番合戦さんの帯刀帯は刺繍などのデザインが一切されていない本当にシンプルなものなので、相場よりやや低めだろう。飾り気が無いのに様になっている。
許可を得れば誰でも帯刀出来るご時世とは言え、彼女のように常に帯刀が許されるのは一握り。単なる帯刀許可の比にならない、厳重な審査を通過しなければならず、この歳で常時帯刀出来る者は、剣の才能があってもそうはいない。
幼少から教育を受けた、由緒正しい旧家の出が大半を占め、つまり一番合戦さんは、お嬢様兼強者の可能性がかなり高いのだ。初見の畏縮の訳は緊張だけではなく、と言うかもう学内で帯刀しているというそれだけで縮み上がっていた。尤も一番合戦さんはお嬢様より武人ぽい雰囲気だけれど、兎に角この場合の許可とは、帯刀許可証を指す。
鬼を討つ為の、力を持っているかの証。
「いやいや全然! そんな僕が剣なんて……百鬼だって全然知らないし、ただの一般人だよ」
「ん。そうか? 残念だなあ折角早起きしたんだし、挨拶代わりにそこの剣道場でも借りて、一勝負申し込もうと思ってたんだが」
無邪気にとんでもない事を言っている。
達人が素人に勝負を挑もうとしていた。
そりゃあ本気で来るような大人気ない人には見えないけれど、並べて話すのも馬鹿馬鹿しいぐらい、常時帯刀者と帯刀者でも違うのに、一般人と挨拶代わりに一勝負って。体育会系でも相当な熱血だ。……最早熱血とは別の域に達している気がしないでもないが。
「豊住は朝から汗かきたくないって乗ってくれないし……」
残念がる一番合戦さんを遮るように、携帯が鳴った。
自分のだろうかと確かめる前に、一番合戦さんがブレザーの内ポケットから取り出す。
「はい一番合戦です」
すごい。電話と普段の話し声のトーンが変わらない女の子初めて見た。
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