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 然しすぐに曇る表情。  一番合戦さんは、携帯を持った手を垂らすと僕を見た。 「……うー申し訳無い野暮用だ。また後にしてくれるか?」 「う……うん。大丈夫大丈夫」 「一人で戻れるか?」 「平気だよ」 「悪いな。それじゃ」  一番合戦さんは携帯を耳に当て直しながら踵を返すと、校舎の陰に消えて行く。 「ふう……」  残された僕は、思わず息を吐いた。  絶対今の、大事な用だ。野暮じゃなくて。  その内容の重大さと、僕を置いていく申し訳なさが顔からだだ漏れてた。こっちが緊張しちゃうぐらい。  素直と言うか裏表がないと言うか、生き様がありのまま過ぎる。嘘つけるのかな? 電話で声のトーンが変わらないって相手にもよるけれど、余りいい意味での素直さじゃない。  普通に無防備で危険だ。 「……常時帯刀者か」  そんなことよりもじゃないけれど、つい口をつく。  初めて見た。前の町ではあれだけ同業者がいたのに、一人も手に入れる事が出来なかった、最上位の証。  一度でも身内が取れば、その家が滅びるまで家宝になるぐらいのものだって、皆話してたっけ。つまり一番合戦さんは、あの人よりも強いのか。想像がつかない。あの人よりも強い人がいるなんて。  もし一番合戦さんがあの時あの町にいたら、全部丸く収まっていたかもしれないのか。誰も何も、失わずに。  彼女の勝負を受けて僕が勝ったら、あの結末を変えられたかもしれないと思うこの気持ちは、傲慢じゃないと確信出来る。あれは、もっと他にやりようがあったって。先輩は間違ってるって。  後で申し込んでみようか、手心なんて要らない真剣勝負で、僕を親の仇と思って戦って下さいって。勝てばこの気持ちにも、少しは区切りがつくかもしれない。  なんて、どうしようもない事を考えながら、教室に戻った。  転校生とは珍しがられると分かっていたけれど、よそのクラスの人にまで見物に来られた時は、正直越してきた理由も相俟って辟易した。  どこから来たの?  みんなが知らないような、すごく遠い所から。  前の町はどんな所だった?  騒がしかったかな。  前の学校はどんな感じ?  普通だよ。  根掘り葉掘り質問攻めに遭いながも、予め用意していた、当たり障りの無い言葉を返す。  そして何故だか、一番合戦さんの自慢話をされた。  斬った妖怪は数知れず。国でも指折りの剣の鬼。彼女なくして、この町の安寧は成り立たない。
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