ユリ

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ガタン……ガタン…… 明るくなってきた空の下、その音は遠くからかすかに聞こえてきた。 私と爺ちゃんでその方向に目をやると、ガラスの窓に朝の光が反射して、キラキラと宝石箱のような一両編成がゆっくりと近づいてくるのが見える。 「爺ちゃん、あの電車に乗るんだね」 『ああ、そうだユリ。あの電車に乗って……』 そこで言葉を止めた爺ちゃんは、なぜかそのまま黙ってしまった。 そして何を思ったか、突然電車に向かって大きく両手を振り、叫びだした。 『おーい! おーい! こっち、こっちー! 待ってたぞー! 貴子のところまで連れてってくれー! やっと……やっと、会えるんだー! 俺はこれから娘に会いに行くんだー! 大事な孫と一緒によー、大事な娘を迎えに行くんだよー! おーい! おーい!』 私はびっくりして爺ちゃんを見た。 朝日に透ける爺ちゃんの横顔ははっきりとは見えないけど、たぶん、泣いている。 昔から強くて優しくて……豪快に笑ってる顔しか見た事なかったのに。 ……… ………… ………………あぁ、そうかぁ。 爺ちゃん、ママを助けられなかった事をずっと悔やんでいて…… だけど、幼かった私を引き取ってから育てるのに必死で、自分の為に泣くヒマなんてなかったんだ。 それが今、爺ちゃんからママのお父さんにやっと戻れたんだ。 やっと自分の為に泣く事ができたんだ。   私は爺ちゃんが泣いているのに気が付かないふりをして前を向いた。 そして大きく息を吸い、爺ちゃんに負けないくらい大きく両手を振りながら、おーいおーいと力いっぱい叫んだ。 そしてそのまま私達は、電車がホームに着くまで、ずっとずっと手を振り続けていた。    ……ねえ、ママ。 11年前、命がけで私を守ってくれてありがとう。 なのに、ずっとひとりぼっちにさせてごめんなさい。 寂しかったよね、辛かったよね。 これから会いにいくよ。 爺ちゃんと二人。 11年前に爺ちゃんがママに買ってあげたかった苺のケーキを持って。 だから、もう少しだけ……待っててね。 了
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