ユリ

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『そりゃあ、びっくりするだろうよ』 そう言って隣でニカっと笑うのは陽炎みたいに輪郭のはっきりしない爺ちゃんだ。 私は大げさに溜息をつくふりをして、 「爺ちゃんが死んだ時、私あんなに大泣きしたのになぁ……」 と、言うと、爺ちゃんも負けじとやり返してきた。  『ああ、まったくだ。爺ちゃんが死んだくらいで、ユリは子供みてぇにわんわん泣いてよ。爺ちゃんな、死んだあと、あの世に向かって光る道を歩いてたんだ。なのによ、どこまで行っても後ろからユリの泣き声が聞こえてきてよ。それで、これはもう放っとけねぇと思ったんだ。だから爺ちゃん、来た道、走って戻ってきちまった。そう長くはコッチにいられねぇみてぇだけど、一緒に東京行って、貴子にユリの立派になった姿見せてよ……それで貴子を安心させたら一緒に向こうに連れて逝こうと思ってる』 そう言って爺ちゃんは、顔中に刻まれたシワをさらに寄せて笑った。 そして花も葉もない桜の木にふわりと寄り添い、 『なぁ、ユリ。東京はもう桜咲いてんだろうなぁ。向こうはこっちより早いらしいからよ』 「うん、咲いてると思う。今でも変わってなければ駅からアパートまでの道が桜通りになっていて、すごくきれいなんだ」 『桜の道か……いいところなんだな。……なぁ、ユリ。その桜通りって所にケーキ屋はあるのか?』 「商店街だし、あると思うよ?」 『そうか……ならよ、わがままな爺ちゃんの頼み、もう一つ聞いてやってくれねぇか? 東京に着いたらよ、アパートに行く前にそのケーキ屋に寄ってよ、店で一番でかくて一番高い、苺がのったケーキを買ってほしいんだ』 「苺のケーキ……? あっ! 爺ちゃん、それってもしかして、ママの好きなケーキだよね! うん、そうだね! 買っていこう!」
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