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それからな、ここからが大事な話だ。
涙拭いてよく聞け。
ユリ、まず仏壇の奥に茶色い封筒がある。
婆さんと貴子の位牌どかしてその奥の……そう、それだ。
ユリ、その封筒の中には爺ちゃんが死んだ後、このあばら家と土地をどうするかが書いてある。
そうだ、遺言書だ。
ちゃんと、お偉い弁護士先生に頼んで作ってもらった書類だから、これさえあれば親戚連中だって何も手出しはできねぇ。
爺ちゃん、財産なんて大した代物はねぇけどよ、広いだけが取り柄のこの土地と山を売っぱらえば多少の金になる。
その金はみんなお前のものだ。
ユリが本当に困った時、ユリが良い人見つけて嫁に行く時、そういう時に使ってくれ。
……なに?
この家を離れたくない?
爺ちゃんが死んでもここで一人で暮らす?
ああ、ユリ……ありがてぇけど、それは駄目だ。
情けねぇ話だが、あいつら……親戚連中は腐ってる。
みんな揃って金の亡者だ。
普段、爺ちゃんやユリに顔を見せるどころか電話の一本もよこさねぇくせによ、爺ちゃんが死んでユリが一人になったら、ハイエナのように寄ってくるだろうよ。
それでうまい事言って騙してよ。
純粋なユリなんざ、あっという間に身ぐるみ剥されて放り出されちまう。
だがな、そんな事は爺ちゃんがさせねぇ……!
絶対におまえを守ってやる……!
だからユリ、爺ちゃんが死んだらすぐに金を持ってここから出るんだ、いいな。
ユリ、封筒の中にもう1つ。
お前名義の通帳があるだろ?
それを見てごらん。
ははは!
驚いたか!
爺ちゃんな、思いがけずお前と暮らせるようになった11年前から、婆さんと二人でコツコツずっと貯めてきたんだ。
たいした額じゃねぇけど、この金で引っ越しすればいい。
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