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泣くなユリ、お前は本当に昔から泣き虫だ。
それで、その、これからのお前の行き場所なんだがよ。
どこか特別住みたいところがなけりゃ東京に行け。
都会の方が働く場所も多いだろうし、それに……おまえは7歳までは東京に住んでいたんだ。
まったく知らない土地って訳でもねぇだろ。
……うん、そうだな、わかってるよ。
お前にとって東京は恐いところだよな。
けどよ……爺ちゃんの最後の願いを聞いてくれねぇか?
ユリの母親……爺ちゃんの娘の貴子は高校を卒業した18歳で上京したんだ。
ちょうど、今のユリと同じ歳だ。
貴子はこんな田舎で一生を終わらせたくない、なんて生意気言って勝手に寮がある東京の会社に就職決めてきちまいやがった。
爺ちゃんな、今思えば淋しかったんだ。
かわいい一人娘が出て行ってしまう事がいやでいやでたまらなかったんだ。
できればずっと貴子をそばに置いておきたい、なんだったら就職だってしなくていい。
爺ちゃんが金を稼いでいつまでも食わせてやるから、貴子は婆さんと家の事でもやってくれたらいい、そう思ってたんだ。
でも、素直にそれが言えなくてよ。
貴子が東京へたつ前の晩。
爺ちゃん、貴子をどうにかして引き止めたくてな。
かと言ってなんて切りだせばいいかわからなくて、取りあえず貴子の部屋に行ったんだ。
そうしたら、親の心子知らずでよ。
貴子はまとめた荷物の横で、楽しそうに明日の始発電車の時刻を調べていたんだ。
それを見て爺ちゃん、なんだか無性に腹が立ってな。
貴子に非がないのはわかっていたのに、引き止めたい気持ちと八つ当たりの気持ちがごっちゃになって、
『本当に行く気か! そんなに東京が大事か! 俺や母さんよりも大事か! だったらもういい! 始発なんか待ってないで今すぐ出て行け! 二度と帰ってくるな!』
って、怒鳴っちまった。
もちろん、それは本心じゃない。
ただ、そこまで言えば貴子が上京を諦めてくれるとかと思ったんだ。
でも、結果は違った。
貴子は目を真っ赤にして、
『お父さんは、昔から私を縛りたがるけど、私はもう子供じゃない!』
って、言い残し出て行ってしまった。
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