ユリ

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貴子は救急隊員が到着するまでの34分間、ユリを守ろうと命がけで闘った。 亭主の……奴の自供じゃ、貴子は119番通報した後、奴をユリに近づけまいと両手を広げて盾となった。 それを見た奴が笑いながら貴子の頬を何度も打った。 だが、どれだけ殴ってもどれだけ蹴っても、その日の貴子は頑として引かなかった。 いつもみたいに泣きもしないし怯えもしない。 ただユリの盾となり燃えるような目でじっと見るんだ。 奴はだんだん笑えなくなった。 何発目かの拳が貴子の顔面にめり込んで鈍い音がした。 拳をどけてみると明らかに貴子の鼻が陥没している。 さすがに奴もやりすぎたかと焦ったものの、燃える目はそのままに声も上げず盾になり続ける貴子に、奴は悲鳴を上げながら貴子の首を絞めたんだ……! 最後に奴は言っていたそうだ。 貴子は死んだはずなのに…… 目の前の貴子の遺体から、陽炎みたいに輪郭のはっきりしない、もう一人の貴子が抜け出して、倒れてる子供の前で両手を広げ再び盾になった、と。
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