第25話 忙殺

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・・・ああ、分かったよ。正直に言うよ。本当は答えなんて出てる。でも、それはもう食べられないんだ。 豚肉のしょうが焼き。普通のじゃないぜ、ある人が作った豚肉のしょうが焼き。それを頬張ると、口の中に天国が訪れるんだ。 ろくな人生を送っていないオレなんて、死んだら地獄に行くと決まってる。だったら、死ぬ前に天国を味わってもいいだろ?  だから、あの人が作る豚肉のしょうが焼き。最高なんだよ、マジで。だけど、無理なんだ。その人とは、もう別れてしまったから。なんか女々しいな、オレ。 この質問をコイツにも聞いてみようか。オレの手の中で、顔をクシャクシャにして嬉しそうに眠っている、ブサイクな生き物。 サルモドキ、シンタロウ。 ラバナスって生き物で、何でもガツガツ食べやがる。肉だって、魚だって、生きてる動物や仲間同士だって食い合うんだ。この「食う=生きる」みたいな生き物は、いったい最期に何を食べたいんだろう。 「おまえは、何が食いたいんだ?」 聞いたって答えるわけないか。だってコイツがしゃべれるのは、「食ベテイイゾ」とか「本当ニ気持チ悪イヤツダナァ」くらいなもので。そもそも寝ていて話なんか聞いちゃいないし。 ドッグフード? 確かに普段、六キロ一八三六円のドックフードをむさぼり食っている。でも、美味しいとは思ってないみたいって、最近知ったんだ。
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