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シュルトが、どこへ行ったのかは誰にも分からない。
たぶん、日本からは脱出しているだろうというのが、関係者の予想だ。
ガディン、ブロンド女優と一緒にフランクフルトにでも帰って、ブタのしっぽの研究に没頭しているんじゃないか。
IQ二一〇の頭脳が、近い将来ヒトに感染するラバナスウイルスを誕生させるだろう。
それは来週の話かもしれないし、十年後の話かもしれない。
でも、あの野郎なら、必ず実現させるだろう。オレたち人間社会は、間もなく化け物社会にとって代わられることになる。
ここまで話し終える頃には、万代ロマンチックサーカスの点灯時間も過ぎて、イルミネーションは消えていた。
寂しい外灯の下、冷え切った缶コーヒーで使い過ぎた喉を潤す。
睦美ちゃんが話のすべてを信じてくれたかどうかは分からない。ただうつむいて、オレの手をギュッと握ってきた。オレも強く握り返す。
「もしオレがラバナスウイルスに感染したら、遠慮なく殺してほしい。他の誰かを食べちまうなんて、我慢ならないから。頭だよ。頭を狙うんだ。脳幹がつぶれれば、確実に死ぬから」
睦美ちゃんは、イヤイヤと頭を横に振る。そんな涙目でみつめないでくれ、オレの決心が揺らぐ。
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