第34話 絶望

32/38
前へ
/540ページ
次へ
シュルトが、どこへ行ったのかは誰にも分からない。 たぶん、日本からは脱出しているだろうというのが、関係者の予想だ。 ガディン、ブロンド女優と一緒にフランクフルトにでも帰って、ブタのしっぽの研究に没頭しているんじゃないか。 IQ二一〇の頭脳が、近い将来ヒトに感染するラバナスウイルスを誕生させるだろう。 それは来週の話かもしれないし、十年後の話かもしれない。 でも、あの野郎なら、必ず実現させるだろう。オレたち人間社会は、間もなく化け物社会にとって代わられることになる。 ここまで話し終える頃には、万代ロマンチックサーカスの点灯時間も過ぎて、イルミネーションは消えていた。 寂しい外灯の下、冷え切った缶コーヒーで使い過ぎた喉を潤す。 睦美ちゃんが話のすべてを信じてくれたかどうかは分からない。ただうつむいて、オレの手をギュッと握ってきた。オレも強く握り返す。 「もしオレがラバナスウイルスに感染したら、遠慮なく殺してほしい。他の誰かを食べちまうなんて、我慢ならないから。頭だよ。頭を狙うんだ。脳幹がつぶれれば、確実に死ぬから」 睦美ちゃんは、イヤイヤと頭を横に振る。そんな涙目でみつめないでくれ、オレの決心が揺らぐ。
/540ページ

最初のコメントを投稿しよう!

355人が本棚に入れています
本棚に追加