第34話 絶望

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「じゃあ、わたしがそうなったら、修治さんが殺して」 オレは、駄目だと断った。 「もし睦美ちゃんが感染したら、真っ先オレを食べに来てよ。この贅肉だらけの腹、食べごたえがありそうだろ?」 睦美ちゃんは、「そんなことできるわけない」って、オレの腕に縋り付いた。でもきっと、あのウイルスに感染したら、食べたくてしかたがなくなるんだろうな。想像するだけで恐ろしいよ。 飲み屋のネオンサインも消え、寂しくなった商店街を歩く。 寒さに肩を寄せ合って、吐く息の白さを競い合うように、たわいもない話をした。ポッチャリ真知子ちゃんの恋愛事情。新店長が激怒した最新エピソード。バイトくんが計画している馬鹿すぎるクリスマスパーティー。 笑いながら、見つめ合いながら、ボロアパートへ帰る二人。どこにでもいる、平凡なカップルだ。手は、しっかりとつないでいる。 起こるかもしれない人間社会の崩壊なんて、考えなくてもいい。 怯えたってしかたない。 後悔はたくさんあるけど、今さら考えたってどうしようもない。 オレたちは頑張ったじゃないか。ララもシンタロウもタクツァンも。 葵さんも梅田さんも高柳さんも、あいつも。
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