第35話 最強

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角砂糖をただ並べただけのような、武骨な建物。クリーム色の外壁は、色あせて時代を感じさせる。 参加者たちの車で埋め尽くされた駐車場を突きって、オレは東北・甲信越、寒中水泳競技会の会場に駆け込んだ。 玄関近くの喫煙所で、葵さんが待っていてくれた。吸っていたタバコを急いでもみ消し、オレを誘導する。 「こっちよ、来て」 西之沢から送られてきた画像は、すでに葵さんに転送しておいた。運営側の警備員たちは、会場中の捜索に尽力してくれたようだ。 でも、その前にどうしても頼まなければならないことがあった。 「葵さん、緊急事態だ。協力してくれ」 「分かってる。シュルトもガディンも、まだ見つかってない。だけど、女ブリーダーを拘束したわ。こっちよ」 やっぱりブロンド女優はいたのか。ならば、きっとシュルトもガディンもいるはずだ。だけど、今、直面している緊急事態は、それじゃない。オレは、首を横に振った。 「葵さん、タクシー代、貸してくれ」 梅田さんは入院中だし、葵さんは会場入りしてるし、誰にも送ってもらえないんだからタクシーで来るしかないだろう?  そして、オレには金がない。先月のバイト代は、全額、食事券に変わってしまったから。 葵さんは、「馬鹿」とつぶやいて財布を出しながら、オレの尻を蹴った。 財布の代わりと言っちゃなんだが、オレはサマンサタバサのショップ袋を渡した。オレからのクリスマスプレゼント。 中身のサルを見て、葵さんは高級バッグよりも喜んでくれたよ。  ※ ※ ※ ※ ※
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