第35話 最強

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いつのまにか西之沢が、葵さんの隣に立っていた。あまりに近すぎて、左の義手が葵さんの尻に触れている。彼女は、容赦なく義手を払いのけた。 「あんたの下心が、オレをここに呼んだんだ。ある意味、感謝してるよ」 天パ野郎は、言葉の意味が分からずポカンと口を開けていた。 ドッと歓声があがり、試合の決着を知らせてくれた。横倒しになった血だらけのウシの肉を、虹色ヒョウが貪り食っている。 さすが浦瀬牧場。見た目だけじゃなく、実力をともなったラバナスだ。 ラバナスの死体が運び出され、放水が血を洗い流した。係員の慣れた手つきで、ドライワイパーの水かきが終わる。血だらけの惨状が、あっという間に収拾された。この事務的な手際の良さも、寒中水泳競技会の気色悪さのひとつだ。 そして、第四試合の準備が始まった。 西側からは、一・五メートル四方の大きなケージが運び込まれる。台車では運べず、フォークリフトを使用していた。 ブリーダーは、社長風の恰幅のいいおじさん。金にものをいわせた、そこそこの大型ラバナスか。 一方、東側には、六〇センチ弱のケージが台車に乗せられて、スロープを下っている。ブリーダーは、メガネ率の高い学生っぽい五人チーム。高専ロボコンか何かと間違っているんじゃないか?
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