第35話 最強

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両側の係員により、準備完了が確認された。二人同時に旗を振り下ろす。「アンリーシュ!」の掛け声が響いた。 恰幅のいい社長は、大きなケージにかけられたアルミシートを剥ぎ取る。一・五メートル四方のケージは、中のラバナスを厳重に閉じ込めておくためか、鉄の鎖でグルグル巻きにされていた。 会場の歓声を受けて、ケージが揺れ動く。ギシギシと鉄の鎖が軋む音をたてた。 大量の冷や汗を流していた社長風ブリーダーは、なぜか恐怖の面持ちで逃げ出してしまった。何かがおかしい。警備員にとらえられて、大声をあげている。 「頼まれて運び込んだだけなんだ! 家族の命がかかっているんだ!」 葵さんがインカムで、他の警備員と連絡を取る。 「何があったの? 脅迫されてるってどういうこと?」 一方のロボコン学生チームも、ケージを覆っていたアルミシートをめくるなり、プールの壁をよじ登って逃げた。 「どうなってるの! 東側、彼らも確保して!」 きっと彼らも脅されていたんだろう。それは、ケージの中を見てすぐに分かった。 六〇センチ弱のケージ内には、少年がいた。 登山用のリュックを背負って、体育座りをしている。 アルミシートを剥ぎ取られて差し込んだ照明に、まぶしそうに手をかざす。 ケージを内側から開けると、リュックを置いて外へ出た。手を頭上で握って、大きく背伸びをしている。 「ああ、窮屈だった」
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