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シュルトの胸ポケットから、怒髪天鼠が顔を出した。少年の身体を伝って、床に下りた。ちょこまかとした走りで、灰色の立方体に向かっていく。
「そいつを、食べさせるかよ!」
考えるより先に身体が動いていた。オレは水のないプールへと飛び込み、小さなネズミを追いかけた。
「なぁんだ、また邪魔しにきたのぉ?」
少年ラバナスが眉根を寄せる。
ラバナスの試合中に、プールへと駆け込んだオレを見て、会場中から悲鳴とブーイングが浴びせられた。でも、そんなものに反応している場合じゃなかった。
右へ左へとフェイントをかけて、怒髪天鼠がオレから逃れようとする。クソっ、すばしっこい野郎だ。こんなときに、シンタロウはどこへ行きやがったんだ。
あざ笑うかのように、ネズミがオレの足元から身体を駆け上がり、肩までたどりつくと盛大にジャンプした。その軌道は、あの灰色の立方体へ一直線だ。
「行かせるかよ!」
オレは身体をひねりながら、床を蹴って飛びかかった。伸ばした手は、しっかりとネズミをつかんだ。
プール槽に転がりながら、寸前のところで怒髪天鼠を取り押さえてやった。
「やったぜ、葵さん!」
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