第35話 最強

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シュルトの胸ポケットから、怒髪天鼠が顔を出した。少年の身体を伝って、床に下りた。ちょこまかとした走りで、灰色の立方体に向かっていく。 「そいつを、食べさせるかよ!」 考えるより先に身体が動いていた。オレは水のないプールへと飛び込み、小さなネズミを追いかけた。 「なぁんだ、また邪魔しにきたのぉ?」 少年ラバナスが眉根を寄せる。 ラバナスの試合中に、プールへと駆け込んだオレを見て、会場中から悲鳴とブーイングが浴びせられた。でも、そんなものに反応している場合じゃなかった。 右へ左へとフェイントをかけて、怒髪天鼠がオレから逃れようとする。クソっ、すばしっこい野郎だ。こんなときに、シンタロウはどこへ行きやがったんだ。 あざ笑うかのように、ネズミがオレの足元から身体を駆け上がり、肩までたどりつくと盛大にジャンプした。その軌道は、あの灰色の立方体へ一直線だ。 「行かせるかよ!」 オレは身体をひねりながら、床を蹴って飛びかかった。伸ばした手は、しっかりとネズミをつかんだ。 プール槽に転がりながら、寸前のところで怒髪天鼠を取り押さえてやった。 「やったぜ、葵さん!」
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