第35話 最強

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オレは完全に逃げるタイミングを失ってしまった。 ガディンの真っ赤な目が、こっちをにらみつけていた。どうやら、次の標的を定めたようだ。 オレは立ち上がって駆け出す。背後から近づいてくる鎖の風切り音。一度プールの底面にぶつかった鉄鎖は、バウンドしてオレの足首に巻き付いた。 アキレス腱を、千切れるような痛みが襲う。足元をすくわれて、思いっきり転んだ。せっかく治まっていた脇腹の痛みが、またぶりかえしやがった。 ガディンが鎖をたぐり寄せる。オレの身体は、必死の抵抗に反して引っ張られていく。 冗談じゃない! あんなゾウの化け物に食われるなんて、ごめんだ! 「シンタロウ! シンタロウ、助けてくれ!」 叫んでも、あのサルは現れなかった。会場は、ラバナス対人間の構図に、やっと違和感を感じ始めていた。そうだ、これは試合なんかじゃない。人類の存亡をかけた殺し合いなんだ。 力で適うわけはない。グイグイと引き寄せられ、あとわずかでゾウの手が届く、そんな最悪な状況に・・・彼は現れた。 猛然と駆け込んできて、スタート台を踏み込み驚異的な跳躍を見せる。 彼はジャンプの勢いを保ったまま、回し蹴りを放った。 灰色のゾウに突き刺さる、黄色い稲妻。華麗な蹴りは、ガディンを一歩後退させた。 力の緩んだ隙に、オレは鎖から足を抜き、脱出に成功した。そして命の恩人の背後に身を隠した。
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