2 ノルウェーの王

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2 ノルウェーの王

 式典の翌日、ホーコン七世はヴィルヘルム二世と共にヴァングスネスの村を散歩していた。この日はよく晴れて、歩き回るにはうってつけの天候であった。客人の頭の中はヴァイキングの伝説で満たされているらしく満足そのものといった様子である。昨日は内閣との衝突を思い出して気分が沈んでしまったが、今日はホーコンの機嫌も決して悪くない。寧ろ、先日の除幕式は結局のところ問題もなく終わったのだと内心で安堵している。  実のところ、彼はヴィルヘルム二世が反英感情を公の場で口にすることを危惧していたのだ。例えば義父のエドワード七世の葬儀の際のように。英国出身の王妃は言うまでもなく、ホーコン自身も公人として口に出すことは滅多に無かったが、個人的には英国に親近感があった。そして、ドイツとその皇帝ヴィルヘルム二世についてはヨーロッパに不穏をもたらす存在であるという認識を拭うことができなかった。しかしノルウェーに滞在している間のヴィルヘルムは陽気で気前が良く、西ノルウェーの住人からも愉快な皇帝陛下として概ね好意的に見られていた。
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