2 ノルウェーの王

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「昨日はお疲れ様でした。皆、貴方の贈り物を喜んでいましたね」  歩きながらホーコンは和やかに語りかけた。除幕式の後も、見物人たちは大いに盛り上がり記念撮影などを楽しんでいた。もっとも、今朝の新聞には早速「我々のフィヨルドにジークス・アレは要らない」という見出しのついた記事が掲載されていたのだが…… 「当然だろう、私はこの国の伝説の王たちの中でも最も魅力的な、ドイツとノルウェーの友好の証として建てるに相応しい英雄の像を用意したのだからな」  ヴィルヘルムは自信満々に答えた。彼の言葉に偽りはなかったが、一方で彼の頭の中ではヴァイキングの物語はヨーロッパの北部を支配したゲルマン民族の伝説に範疇化されていた。この価値観は皇帝のみならずフリッチョフの銅像を設計した彫刻家にも存在していたのか、完成した像はヴァイキングというよりも、古代ゲルマン人を模した衣装を身に着けていた。  そのまま暫く話しながら農園沿いの坂道を歩き続けるうちに、ホーコンは小さな空き地を見つけた。有難いことにベンチもある。少し休憩しよう、きっとここからならフィヨルドがよく見えるに違いない。彼はそう考えて足を止めた。 「喋り通しでは疲れてしまうでしょう。少し休みませんか」 「ん? ああ、そうだな」  ホーコンの予想どおり、二人の座ったベンチからは昨日のフリッチョフ像と、その先に広がる青い海と緑の山の美しい風景が一望できた。景色を眺めるヴィルヘルムの表情は実に嬉しそうだった。きっと、自分の建てた像の存在感に喜びを感じているのだろう。
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