みの虫

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みの虫

 友達にかなりの出不精がいるのだが、外出嫌いの上に寒がりなので、冬どころか、秋が深まってくると、何をどう誘ってもほとんど家から出なくなる。  こちらが家を訪ねても億劫そうで、部屋にこそ入れてくれるものの、自分は布団にくるまれたままでの応対も珍しくはないという始末だ。  そんな、元々変わり者の友達が、ある日さらにおかしくなった。  約束をしたのに連絡がつかず、家を訪ねると、友達はいつものように布団にくるまっていた。だが、いくら話しかけても返事をせず、 きょろきょろと辺りを窺うばかりだ。  見かねて布団を引っぺがそうとしたら、奇声を上げて、さらに布団に潜り込んだ。  あまりのことに、市内に住んでいるご両親に連絡を入れて来てもらったのだが、友達は親が来てもそのままで、埒があかず、結局そのまま実家に連れ帰られた。  その後も何度か連絡を取り、実家の方も訪ねた見たが、友達はずっとあのままで、今は病院に入院しているという。  あいつの身に何が起こったのか。  俺にはまるで判らないけれど、今になって、やけに記憶に甦ることがある。  あの日、友達のアパートの片隅にぶら下がっていた一匹のみの虫。  状態が状態だったのでその時には見過ごしたが、今になってから気になって仕方がない。  部屋の中にぶら下がっていたみの虫は、風もないのに妙に揺れていた。  その動きが、まるで、浮かれてダンスを踊っているように見えたのは、俺の気のせいだろうけれど。  おかしくなってしまった友達と、喜んでいるように見えたみの虫。…関連付けるのはやっぱり変だよな。  友達が入院したことでアパートは解約されたようだが、今もあそこにあのみの虫はいるのだろうか。日がな暖かなみのにくるまれて、ぬくぬくと過ごしているのだろうか。人間と比べたらあっという間の、短い一生にもかかわらず。  道を行けば、かなり冷たくなった北風が落ちかけた枯葉を揺らす。その動きが、あのみの虫と重なって見えた。 みの虫…完
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