第10章   花火の夜

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「伯父の会社は今が繁忙期だから、この時期にここに来る人って、 ほとんどないんですよ。だから、超ぉ~穴場」 確かに、直に花火開始の時間にも関わらず、屋上には私たちの姿しかなく しかも、ご丁寧に二人掛けのベンチが、いくつかちゃんと用意されている。 そして、 「じゃ、ごゆっくりどうぞ。俺らは、あっちで見るから」 こちらに小さく手を上げると、響くんは安奈ちゃんの手を取り 一番端のベンチへと歩いて行く。 私は、そんな幸せそうな後ろ姿を、ちょっとぼんやり眺めていた。 「座りましょうか」 この日、初めて冠くんから掛けられた言葉に、私も彼を振り返った。 「うん」 それだけの言葉を交わし、私たちは手を繋ぐでもなく 反対端のベンチに並んだ。
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