第9章   少しだけ近くに

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「あっ、うぅん。私の方こそ、ごめんなさい」 そして私は、慌ててバッグの中のハンカチタオルを探しだす。 しかし、ようやくそれを取り出した私に、 彼は、尚もティッシュを差し出してきた。 「先に、これで……」 「えっ?」 「あの……、えっと……、チンしてください」 チンして……。って、ハナミズッ?! ハッとする私に、彼は、ちょっと困惑したように微笑みを歪める。 そして、そっと彼の指先が引き出した一枚を、私も少し項垂れつつ 素直に引っ張り出す。 しかし、ありがたく貰ったティッシュで鼻を拭いながら、 視線の先が捉えたものに、再び私はハッとした。 「ご、ごめんなさい。私、冠くんのスーツに……」
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