第9章   少しだけ近くに

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だが、鼻にティッシュを当てたまま、慌てて彼を見上げた私を 彼はクスッと笑う。 「大丈夫です」 「でも……」 「確かに高給取りじゃないですけど、スーツの替えくらいは持ってますから」 「あっ、じゃあ、せめてクリーニング代を」 そう言いつつ再びバッグに突っ込んだ私の手に、そっと彼の手が乗せられた。 「夏海さん。心の痛み、少しは治りました?」 えっ……? 目を上げると、微笑みの消えた彼の眼差しが心配そうに私を見つめ 聞いてくる。 それで、ちょっと声に詰まった私は、ゆっくりと気付いた。
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