第9章   少しだけ近くに

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第9章   少しだけ近くに

どれくらい、泣いていたんだろう。 自分でも、呼吸をしてるのか、泣きじゃくっているのか分からなかった ものが、すうっと楽になってきた。 それと同時に、私を抱きしめていた冠くんの腕も、ゆっくり緩んでいく。 「ごめんね……」 そして、やっと私の言葉も戻った。 「少しは、スッキリしました?」 そう言われて、思わず目の前の彼を見上げた。 するとそこには、あのワンコスマイルと差し出されたポケットティッシュ。 「ごめんなさい。僕、きれいなハンカチ持ってなくて……」 彼のスマイルに、ほんのわずかに照れが浮かぶ。 それで、にわかに私も我に返った。
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