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バンドをしようといったくせにメンバーは私しかいなかった。
「すぐ集めるよ」
と、岐部は呑気に言った。
桜の季節だ。
受験なんて無縁な気がして毎日、歌った。
もちろん、屋上で。
岐部はギターくらい弾けるようになれと言った。
親にせがんでアコギを入手。
放課後、岐部はギターを教えてくれた。
「後のメンバーはベースとドラム?」
疑問に思って聞くと
「ドラムとギターだよ」
「え?」
「ギターは作曲の為。本業はベース」
驚いた。岐部は音楽に対して真面目に向き合っているんだろうか。
「そうだ、新しい曲できたんだ」
「聞きたい」
ジャーン、と岐部がギターを弾き始めた。
岐部の曲は変わってる。
上にいったり下にいったりもしくはジグザグだったり。
「たったたたー」
気づいたらリズムにのり、でたらめな歌詞で歌ってた。
楽しくて、岐部の方を見たら岐部はギターを弾くのをやめていた。
私は口を開きっぱで固まってしまった。
「そんな、感情的に歌うのやめて」
岐部の目を見ると真剣な真っ黒な目だった。
一瞬、怖くなった。
「ごめん」
私はいていられなくなって、屋上から飛び出した。
階段をずっと降りていった。
あんな岐部、初めてみた。
私そんな悪いことしたのかな。
「あの、丸山さん?」
顔をあげると新しいクラスで一緒になった人が立っていた。
この人、クラス委員とかだったような。
授業サボってること、なんか言われるのかな。すると、
「あのさ、俺ー」
屋上に戻る気にもなれなくて、駐輪場でひとりでぼぉっとしていた。
初めて告白された。
「おい」
息を切らした岐部が私のとこまで駆け寄ってきた。
「さっきはごめんて。俺、感情入ってますって感じ好きじゃなくて。いや、丸山の声だったらそんなんなくても伝わるから」
髪から汗が垂れそうだった。
どんだけ、私を探してくれたんだろうか。
「俺とバンドやめないで」
よかった。さっきの告白断って。
「やめないよ、歌う楽しいし」
私は笑った。岐部も笑ってた。
その後、荷物を取りに屋上に戻り、一緒に帰った。
帰り道ふと岐部に聞いてみた。
「岐部は好きな人とかいるの?」
「いるよ。てか、彼女だけど」
岐部はちょっと照れてるみたいだった。
よかった。もうしばらく一緒にいたら岐部のこと、好きになりそうだったから…
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