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期末試験の結果が悪かったため、補修で残されていたらすっかり夕方になっていた。なんとなく帰る気になれなく、いつも加納に告白していた中庭のベンチに一人腰をかけた。校庭でサッカー部が練習をしている。
「何してんの?」
真横からいきなり声が聞こえた。
振り向くと加納だった。
「たそがれてんの」
もう1ヶ月も会話をしていなかったから、返答に困ったが香織がそう答えると、加納が横に座ってきた。
「何怒ってんの」
「怒ってないんだけど。疲れてるだけ、今日補修だったから」
「諦めたの?」
「何が?」
「オレのこと」
胸がドクドクいっているのがわかった。というか、加納の意外な一面に自分をどう保っていいのかわからなくなっていた。
「スキデス、ツキアッテクダサイ」
いつもの台詞を香織は初めて棒読みで言った。10回目の告白だが、もう告白ではなかった。諦めた、とか言ってこの恋を本気にするのが嫌だった。惨めになるのが嫌だった。だから、笑いに変えてしまおうとそう思った。
「嫌です、付き合えません」
いつもの返答だ。
「......」
「......言わないの?いつもの『てっへんだー』て」
加納がこちらを向く。
「はい?」
「オレ、城川さんの『てっへんだー』って好きなんだけど。てかそれ聞きたくて毎回断ってたんだけど」
照れくさそうに加納が言った。
「はい?」
「十回それ聞いたら、OKしようと思ってたんだけどな」
こちらを意地悪そうな顔をして覗く。
「はい?」
不覚にも涙がでてきた。
「ごめん、からかいすぎた?」
そういうと分厚い黒眼鏡はずした。香織が想像していた通り綺麗な目をしていた。
いつかきっと自分のものにと思っていたものは、いつしか彼のものになっていたようだった。そして涙声できっと最後になるであろう言葉を発した。
「好きです、付き合って下さい」
「よろしくお願いします」
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