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肩の開いたブラウスに、椅子に掛けていた兄のだぼだぼの蒼いパーカーを羽織ると、私は立ちあがって、食器を洗い場に放って冷蔵庫を開ける。
私―――アキの母、美織は、埼玉県警刑事捜査第一課の捜査員をしている。
離婚してから、母は私と兄を一人で育ててきた。兄が亡くなってからも、生活を犠牲にしながら、私を育ててくれていた。そんな母は昔から評判の美人で、私にとっては小さい頃から鼻の高い母親だ。殺人事件が起こるたび、私は職場の母に、おにぎりを持って行く。それは日常茶飯事だった。
自転車に乗って風を切り、ステンレスのカラカラと擦れ回る車輪の音を響かせながら、私はやがて埼玉県警の駐車場に入った。
家を出て8分ほど。街中を走って到着した。
パトカーや乗用車が止まる駐車場の車輪止めに自転車を止めると、私はおにぎり入りのタッパーが入ったエコバッグを肩に掛けて正面玄関に向かった。
そうしてやがて正面玄関の自動ドアを通った。
中に入ってすぐの事務受付には、制服を着た捜査員がいた。雑談が楽しいのか、笑う声が聞こえた。
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