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第13章 雨の夜に
タクシーの中で、私たちは、ほとんど言葉を交わさなかった。
そして外は、相変わらずの豪雨。
時折、夜空に稲光が走り、それに続く雷鳴は大きく鳴り響く。
その中、程なく私のマンションの前にタクシーが到着した。
しかし、どうにかタクシーは降りたものの、
彼は、なかなかマンションの正面玄関に入ろうとしない。
私たちの立つ屋根の向こうでは、
まだ他の物音を呑み込む程に、音を立てて大粒の雨が地面と叩いている。
それに、どんなに割とすぐタクシーに乗れても、
やはり、あの小さな折り畳み傘一本では、二人共どこかしら
濡れてしまっている。
だから私は、少し俯き加減でじっと立つ彼の手を再びそっと握った。
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