☆クリスマスには天使にキスを☆

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 四階でエレベーターを降りると、どこかの部屋から声が聞こえてきた。直哉の部屋に向かうと、男女が言い争うような声がだんだんと近づいてくる。夫婦喧嘩だろうか。直哉と顔を見合わせた。  いきなりだった。直哉の隣の部屋の扉が勢いよく開いた。俺たちは慌ててお互いの手を放して、立ち止まった。男性が弾かれたように飛び出してくる。男性は直哉の肩にぶつかると、びっくりしたように振り返った。 「すみません」  直哉が不思議そうな顔をした。 「広瀬さん、どうされたんですか?」  広瀬さんの話は直哉から聞いたことがあった。六月に結婚して隣の部屋に入居してきた新婚夫婦である。ご主人は直哉と同じく読書が趣味で、話がよく合うという。  俺は大学に入学してから何度も直哉の部屋に遊びにきていたが、広瀬さんと会うのは初めてだった。  広瀬さんは、気まずそうに笑うと、襟足の髪を触りながらいった。 「あはは、恥ずかしいところを見られちゃったなあ。ちょっと嫁と喧嘩して、飛び出してきちゃって……」  タイミングの悪い瞬間に登場したこちらも申し訳なくなってしまう。軽く頭を下げた。広瀬さんは「あっ」といって、困った顔をした。
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