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「しまった。コートを忘れてしまった。衣川くん、申し訳ないけどきみのコート貸してくれないかな。少し頭を冷やしに散歩に出かけたいんだけど、ちょっと取りに戻りづらくて……」
直哉は「いいですよ」といって、カナダ製のダウンコートのボタンに指をかけた。
エントランスまでタケルたちを見送りに行ったとき、五人で少し立ち話しただけで、足がすっかりしびれてしまうほど、冷え込む夜である。寒いイブの夜に男一人で散歩だなんて、頭どころか心まで冷えてしまいそうだ。俺は広瀬さんを黙って見送ることはできなかった。直哉の腕をつっつく。
「ねえ、今日は寒いし、部屋にきてもらったら?」
直哉は一瞬微妙な顔をしたが、少し考えて納得したようにうなずいた。
「広瀬さん、よかったらうちに来られませんか?今夜は冷え込みますし、散歩なんてしたら風邪ひいちゃいますよ。ぼくたち、今まで友達とパーティをしてたんです。残り物ですが美味しい料理もあります。落ち着くまでうちで休んでいきませんか」
広瀬さんは寒そうに自分の腕を抱くと、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ありがとう、食事はもう済んだからいいよ。でも暖をとらせてもらえるのは助かるな。じゃあ、お言葉に甘えて少しお邪魔させてもらおうかなあ」
「どうぞ、ご遠慮なく」
俺たちは広瀬さんを部屋に招きいれた。
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