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広瀬さんはさして何も気にせず、自分のスマホを手に取ると、液晶画面に視線を落とした。
「エリと喧嘩したのは、ぼくが彼女のスマホを勝手に見たことから始まったんだ」
なんだかよくきく話だった。パートナーの携帯電話を勝手に見ると、たいていの場合よくないことが起こる。もしかして奥さんの浮気でも発覚したのだろうか。直哉と俺は、固唾を飲んで広瀬さんの次の言葉を待った。
「最近、エリがやたらラインで誰かとメッセージのやり取りをしているから、誰と話してるんだろうと思ってね、エリに直接訊けばよかったんだろうけど、焼きもちを焼いてると思われるのが嫌で、彼女が風呂に入ってる間に、つい見てしまったんだ」
自分のことじゃないのに、胸がどきどきしてしまう。直哉なんて、あからさまに心配そうな顔で目を見開いていた。
「するとさ、相手はなんてことはない、エリの大学時代の友達だったんだけど……」
最悪の事態をまぬがれて、ほっと肩を落とす。だけど広瀬さんは不服そうな表情のままだ。俺たちの顔を見て肩をすくめる。
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