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三人の沈黙を浴室リモコンの音がやぶった。
『ピピピ、もうすぐお風呂が沸きます』
広瀬さんが顔を上げた。
「あ、お風呂。ぼくにかまわず入ってね」
直哉と顔を見合わせた。シャンパンで赤くなっていた直哉の頬は、いつも通りの顔色に戻っていた。
「じゃあ健人、冷めないうちに先に入っておいでよ」
少し寂しそうな顔をする。だけど隣人の前だ。おかしなことはいえない。
「ああ、わかった。じゃあ先に入ってくる」
大学生になって一人暮らしをするようになってからは、湯船につかることなどなかった。ほぼ毎日シャワーですませてしまう。
熱い湯につかり、無意識に深呼吸をした。直哉の部屋のお風呂はファミリータイプである。俺のアパートの風呂と比べると随分広い。男二人で入っても十分余裕はあるだろう。
本当なら今夜は直哉もここにいるはずだった。残念ではあるけども、チャンスはいくらでもある。
なにせ俺たちは、これからもずっと恋人同士なのだ。未来はとても明るい。
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