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風呂からあがって、洗面所から出てきたときだった。インターホンがなった。リビングのモニターで直哉が対応している。リビングから出てきた直哉は、俺の前を通りすぎて、そのまま玄関に向かう。直哉が玄関の扉を開けると、女性の声が聞こえてきた。
「衣川くん、夜分遅くにごめんね。カズくん、お邪魔してないかな」
直哉は何もいわずに、腕をさっと出して、女性を中に招き入れた。リビングへ促す。俺が直哉を見ると、直哉は俺を洗面所に押し込んで小声でいった。
「噂のエリさん。広瀬さんにはいないことにしてってお願いされたけど、ぼく、エリさんに嘘はつけなかったよ」
直哉らしかった。彼をきゅっと抱き締めてから、二人で広瀬さん夫婦のいるリビングへいった。リビングの空気が鉛のように重くなっている。エリさんが困った顔でいった。
「もう、上着も着ずに飛び出したりして、心配して探したんだから。ほら、衣川くんにも迷惑だし、とりあえず帰ろう」
エリさんの腕には、男性用のコートがあった。外を歩いてきたのだろうか、鼻が赤くなっている。広瀬さんはむっとした顔でエリさんを見上げた。エリさんのいうことを聞くつもりはなさそうだった。
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