141人が本棚に入れています
本棚に追加
「だけど、どちらにしても、きみはぼくが家事をできないことを不満に思ってるんだろう。それをちゃんと面と向かっていってほしかった」
エリさんは眉根をよせて、両腕を下にふり下ろした。
「だから!誰が不満だっていったのよ!私は、カズくんが仕事で疲れているのわかってるよ。大学生のときからずっと憧れていた会社に入って、そして今は希望していた部署じゃないけど、いつか自分がやりたい仕事ができる部署へ行けるように頑張ってることも知ってる。そんな風に夢を持ってるカズくんが好きでわたしはカズくんと結婚したんだ。家事なんて、私でもできることをやってもらっても嬉しくない。カズくんには、私ができないことを成し遂げてほしいの」
エリさんの目には涙がいっぱい貯まっていた。広瀬さんがソファから立ち上がった。
「エリ……」
エリさんは袖で涙をぬぐうと、口を尖らせていう。
「それから、スマホを見るのも別に構わない。だけど黙って見るのはやめて。私は単純な性格だけど、これでも頭の中では、すごく複雑なこと考えてるの。スマホの中の情報なんて断片的でしかないんだよ。だからこれが全てだと思われたら困るの。カズくんだって、私のこと怪しいと思ったなら、どうして正直に訊かなかったのよ」
「ごめん……ぼくが悪かった」
エリさんは相当しっかりした奥さんみたいだった。広瀬さんはすっかり肩を落として、しょげてしまった。何故か俺たちも横で一緒になってしょげてしまう。
クリスマスイヴの夜、新婚夫婦の痴話喧嘩から俺たちも学ぶことはいろいろあったかもしれない。
だけど、この教訓も自分たちのこととなると、まるで役に立たないのである。だから世の中の恋人同士は同じ過ちを何度も起こしてしまう。それは俺たちのあいだでも、同じことだった。
この夜、広瀬さん夫婦の間で起こったすれ違いが、まさか俺たちにも飛び火するなんて、思ってもいなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!