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私には、2つ年下の弟がいるらしい。
「え?ちょっとどういうことお母さん!」
「だーかーらー!お母さんもついこの間知ったのよー!」
「そんな急に言われたって、29年間ひとりっ子だと思って育ったのに、義弟がいます。はいそうですか。って普通はならないでしょ!」
「まあそうなんだけど、ごめんね!お母さんこれからミラノに出張だから!あとは頼んだからね!」
言いたいことを一方的に告げ、母からの電話は切れた。
「嘘よ。これは何かの間違いよ。」
ひとり暮らし歴も10年近くなれば、独り言なんて日常茶飯事。ベッドサイドのウサギのぬいぐるみどころか、テレビとだって冷蔵庫とだって話しちゃうもんね。
物心ついた時から、父親の存在はなかった。女手一つで私を育ててくれた母は、輸入雑貨の買付けの為に世界各国を飛び回る忙しい人。そのおかげで、私は幼い頃から家事全般を難なくこなし、1人で生活するのに必要なスキルは粗方身につけている。
男に不自由したことはない。それは母に感謝するとしよう。でもこの性格が災いして、いつだって長続きしないのだ。
ーお前は1人で生きていけるじゃんー
何回そのセリフを聞いたことか。
亡くなった祖母が持っていたマンションには、私1人で住んでいる。ついこの間までここで生活を共にしていた男のことを思い出して、それを追い払う為にグラスに半分入っていたワインを飲みきった。
「あーら、すっぴんにジャージで土曜の夜に家呑み~?」
耳元で聞こえる知らないーオトコーの声。
「ええええ?!誰ーー!!!」
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