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言われて、思い出した。
1カ月くらい前、大きなお鍋を支えきれなくて、中身をこぼして手にヤケドを負ってしまったことを。
私の悲鳴に飛んできた彼が、有無を言わせず私の手を蛇口から飛び出す水に突っ込んで冷やしてくれたから跡も残らずに綺麗に治ったけど、もしも一人きりだったら気が動転して正しい処置なんてできていなかったかもしれない。
やっと贈られたマグカップの意味に気付いた私は、そのままの姿勢で固まってしまう。
だって彼がそんな心配をしていてくれたなんて、知らなかったから。
あの時だって、確かに血の気の引いた顔はしていたけれど、『大丈夫か』も『心配かけるな』も、何も言っていなかったから。
だから、突然向けられた心に何と反応したらいいのか分からない。
そうこうしているうちに、彼はフイッとキッチンへ行ってしまった。
私の大きなマグカップを持ったまま。
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