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タタタンタタンッ……という微かな振動に揺られて、私は気だるく瞳を開いた。
どうやら眠っていたらしい。
俯いていたせいで鼻からメガネがずり落ちたのか、視界は寝起きということを差し引いてもぼんやりとしていた。
『ご乗車ありがとうございます。
この電車は途中行き先を変更するかもしれません』
ひんやりと事務的な口調で響くアナウンスと特有の振動で、自分が電車に乗っていたのだと知った。
メガネを鼻の上に押し戻して車内を見回す。
やけに穏やかな日差しが差し込む車内には、私以外の乗客の姿は見当たらなかった。
いつの間にやら、私が貸し切り状態で乗っていたらしい。
……行き先がどこか分からなくても、どこかに連れて行ってくれるなら、それでいいじゃない
思考にぼんやりとモヤがかかって、何かを考えることができない。
だから私はそのモヤに溶け込もうと再びまぶたを閉じた。
それなのに電車は急にガッタンッと動きを止めてしまう。
急ブレーキに体が吹き飛ばされ、私はコロンと座席の上を横向きに転がってしまった。
太くて分厚いメガネのフレームがこめかみを刺激して、少しだけ意識がさえる。
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