行き先の無い電車

2/17
前へ
/37ページ
次へ
 タタタンタタンッ……という微かな振動に揺られて、私は気だるく瞳を開いた。  どうやら眠っていたらしい。  俯いていたせいで鼻からメガネがずり落ちたのか、視界は寝起きということを差し引いてもぼんやりとしていた。 『ご乗車ありがとうございます。  この電車は途中行き先を変更するかもしれません』  ひんやりと事務的な口調で響くアナウンスと特有の振動で、自分が電車に乗っていたのだと知った。  メガネを鼻の上に押し戻して車内を見回す。  やけに穏やかな日差しが差し込む車内には、私以外の乗客の姿は見当たらなかった。  いつの間にやら、私が貸し切り状態で乗っていたらしい。  ……行き先がどこか分からなくても、どこかに連れて行ってくれるなら、それでいいじゃない  思考にぼんやりとモヤがかかって、何かを考えることができない。  だから私はそのモヤに溶け込もうと再びまぶたを閉じた。  それなのに電車は急にガッタンッと動きを止めてしまう。  急ブレーキに体が吹き飛ばされ、私はコロンと座席の上を横向きに転がってしまった。  太くて分厚いメガネのフレームがこめかみを刺激して、少しだけ意識がさえる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加