5人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーそっか、引退しちゃうんだ。
アメリカの劇場で放映される前から、字幕版のVHSを親にねだって買って貰っていたアニメ映画。
日本らしく、細部まで描かれた緻密なイラストに、優しく、どこか悲しく、考えさせられる物語は、思春期の私にドストライク。
周りがアメリカンコミック一辺倒の中、私は、自分だけは違う世界を知っていると、変な優越感を持っていた。
これは、絶対に観に行かないと!
心の中で、そう決意をすると、彼が不思議そうな顔をしているのが目に入った。
「なに?ひょっとして、ケチャップがついてる?」
慌ててナプキンで口元を拭くけれど、着いたのは薄く塗っていたリップだけ。
「なに、何もついてないじゃん」
からかわれたみたいで、ちょっと悔しくて、口を膨らませる。
すると、彼は飲んでいた珈琲を一気に吹き出した。
「やだ、きたな~い」
言いながら、私が嫌そうな顔をすると、むせ返りながらも、返事をした。
「君が悪いんだろ。
そんな顔されたら、ビックリして誰でもそうなるよ」
「だって、そっちが先に変な顔するから」
なおも膨れっ面をする私に、負けたとばかりに彼が謝る。
「いや、ゴメンゴメン。
でも、毎回近くを視るときに眼鏡を外すのは不便そうだよなと思ってさ」
最初のコメントを投稿しよう!