私は彼のハートを撃ち抜きたかった

6/12
前へ
/12ページ
次へ
ーーそっか、引退しちゃうんだ。 アメリカの劇場で放映される前から、字幕版のVHSを親にねだって買って貰っていたアニメ映画。 日本らしく、細部まで描かれた緻密なイラストに、優しく、どこか悲しく、考えさせられる物語は、思春期の私にドストライク。 周りがアメリカンコミック一辺倒の中、私は、自分だけは違う世界を知っていると、変な優越感を持っていた。 これは、絶対に観に行かないと! 心の中で、そう決意をすると、彼が不思議そうな顔をしているのが目に入った。 「なに?ひょっとして、ケチャップがついてる?」 慌ててナプキンで口元を拭くけれど、着いたのは薄く塗っていたリップだけ。 「なに、何もついてないじゃん」 からかわれたみたいで、ちょっと悔しくて、口を膨らませる。 すると、彼は飲んでいた珈琲を一気に吹き出した。 「やだ、きたな~い」 言いながら、私が嫌そうな顔をすると、むせ返りながらも、返事をした。 「君が悪いんだろ。 そんな顔されたら、ビックリして誰でもそうなるよ」 「だって、そっちが先に変な顔するから」 なおも膨れっ面をする私に、負けたとばかりに彼が謝る。 「いや、ゴメンゴメン。 でも、毎回近くを視るときに眼鏡を外すのは不便そうだよなと思ってさ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加