帰り

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ひゅ、と、何か風を切る音が聞こえた。 何だと思う間に、手が、紐が、体を掴んで巻き付いて、何がなんだか解らなくなる。 頭の中がつんと冷え、危機という警告に凍りつく。 手足は自由がきかない。目を布で塞がれ、口には何か押し込まれ、手は背中に回ったまま、胴体と一緒に縛られている。両側から抱えられ、拘束から落ちた片足を引きずったまま、運ばれ始める。 頭に血が上って、やみくもに暴れるが、意味が無い。自分を掴む手は、外れるたびに何度も場所を変えるだけだ。周りで何か言っている声もする。 解らない。 わからないけれど、 ふと、慌てている自分を、冷静に見ている自分に気がついた。 どうも何か違う。 人数が多い。 でも力が弱い。 手が小さい。 声が若い。 自分を運んでいる3人と、周りで喋る3・4人。 どれも、大人じゃない。 それが分かると、頭を刺すような緊張が止んだ。  
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