帰り

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なにしてんだ、とか、お前がやれよ、とか。しんと湿った空気の中、声変わり前の男子たちがざわついているのが、よく聞こえる。 何でやる側が戸惑っているのか。 かん、と乾いた音がして、理由が判った。 木刀か。 それでもうすっかり、周りが誰で何をしに来たのかが判ってしまい、警戒すら解いた。 やっぱり馬鹿だ。 口が塞がってなければ、気分を逆なでする事の5つや6つ、すぐに出たのに。 このままぐったりした風にしておけば、そのうち一撃くらい来るだろうか。 それくらいしてくれないと、面白くない。 じゃあおれがやる、とやけになった声が聞こえた。 たぶんあの中で、一番ガタイがよくて一番頭の悪い奴の声だろう。 一番に逃げて一番に泣かせた、偉そうな奴の兄貴だ。 ぶんぶん木刀を振り回す音がして、そのままの勢いで、振り下ろされる風切音がした。 歓声と悲鳴のような声が上がる。 そして、鈍く肉を打ちつける音がした。
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