追憶

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…「こんばんは。」 そう言いながら玄関を開けると、 「おいおい、ここはお前の実家だろうが。 そこは『ただいま。』って挨拶するもんだぞ。 ほら、言い直せ。」 …兄夫婦と今年三歳になった姪が… 笑いながら立っていた。 …温かかった… 高校卒業してから職にもつけず… 『自分の家族』を持てないと思ってきた私。 でも… 自分の家族はあった。 離れてはいても… 確かにあったのだ…。 …姪と奥さんが眠りにつき、 居間は兄と私の二人だけになった時… …兄が口を開いた。 「まだ、仕事見つかってないのか?。」 いきなりの言葉に驚く私を見て… 「覚えているか? 俺の同期のヤスのこと。 アイツ、ここにベンチャー企業設立してな。 『今のうちの人員じゃ、 都会慣れしてるやつ居ね~んだよぉ。 誰が居ねえか、都会慣れしたやつ。 俺だけで営業っても…かなりキツいんだよ~。』って 泣きついて来てな。 …一度やってみないか? 高卒のあいつの下ではあるが… お前を縛ってきた『学歴』って物を 一旦封印して、がむしゃらに仕事を…。 …ま、決めるのはお前だ。 俺はどちらでもいい。 お前の人生の決断はお前の権利だからなぁ。」 兄はそういうと、視線を私の後ろに向けた。 「しっかし、お前って… あの『プレゼント』最後まで持ってたんだな…。 普通なら価値の無い…『俺の作ったプレゼント』を。 お前のだって言ったら娘が飾ってって聞かなくてな。」 振り向いた所にある戸棚… そこには『あのプレゼント』が全て飾ってあった… 「あぁお前の部屋に布団用意してあるから、 好きな時に寝てくれや。俺もう寝るから。」 昔の自分の部屋に敷かれた布団。 寝心地は最高だった。 …今日の『サンタクロース』からの贈り物… 今まで一番欲しかった物をくれた サンタクロースの期待に… 明日の朝、応えようと想いながら眠りに着いた…。 【完】
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