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やっぱり冬だ。寒い。
作家先生も寒いらしくブルッと震える。
「くっつくと暖かいかも」
おい。おいおい。
くっつくか?普通。しっかりと俺の右腕にしがみつき、体も寄せてくる。歩きづらい。
あんまり俺と身長変わらないんだな。180㎝よりは下ってとこか。横幅は俺が遥かにあるけど。
顔が近い。細面だが男性的な額から顎のライン。夜の帳に浮かび上がる白い肌。
くそ、我慢だ。先生様だ、この人は。
「そういえば川崎さん柔道の人でしたね」
言ったっけ?
「あの馬。貴方に似てました」
馬に?筋肉か?先生に見せたことありました?それとも……あ、牝馬だったな、あいつは。
「見栄えは悪くないのにその他大勢に見事に紛れて目立たない。なのに時折見せる貫くような眼の光」
馬だ。馬の話だ。
「隠してる本性というか秘密が瞳に」
夢見るようにつぶやいたと思ったら。
あっと小さく声を上げ、俺に顔を向ける。
「あの男、モザイクアーティストのジンだ」
フリーズ。
何故判った?あいつ完璧に化けてたけど。てか知ってるんだ。まあテレビに雑誌にとよく出てるが。
「どういう関係?」
あの。
腕離して貰えます?ダウンジャケットの上からにも拘わらず爪が食い込む。
「えっと、飲み仲間」
間違っちゃいない。
「本当に?」
目を眇るあんた、嫉妬に狂った元カノみたいだ。
『信じらんない』って飛び出してそれっきりの。
「どうしました?」
「あ、元カノ思い出してました」
どういう関連ですか?と独り言をブツブツ言いながら、そのまま俺の腕を引っ張って前に進む。思ったより力、強い。筋肉には自信あるけど筋力は負けたな。
気がつけば目的地到着、先生は既に家の中。
仕方ない。ジャケットを脱いで三和土にあるポールに引っ掛ける。
どうにも尻がムズガユイ。
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