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台所からいつもの書斎部屋にいてくれと声を掛けられ、勝手知ったるじゃないが、部屋に向かう。
雨戸をびっしり閉めてるから廊下は薄暗い。暖房も効きが悪そうだ。部屋に入ると案の定氷部屋。座卓の上に並べてあった照明とエアコンのリモコンを見つけ操作する。
愛用の文机を見れば。
ん~。原稿は無いようだが雑誌が乱雑に置かれてる。勉強したのは間違いないらしい。とりあえず整えて。
………これは。さっきの居酒屋。付箋が貼ってある。初めからチョイスしてたか。まるでデートだな。
……いや取材の為だ。取材、取材。
「あ、すみません片付けて下さって」
入ってきた先生が持って来たトレイを座卓に置く。
「寒いので紅茶にしました」
ポットのカバーを取ると、白いティーポットが顔を出した。お揃いのカップ&ソーサーは、言わずもがなの有名処だな。
「さっきの話ですが」
まだ続くんかい?
さすがにげんなりしてきた。
「合図送ってましたよね」
カップに紅茶を静かに注ぎながら同じく静かに告げる。
何だか浮気を責められる旦那の気分だ。元カノの方がまだ気が楽だったな。
「また元カノのこと思い出してました?」
……鋭い。さすが作家様。睨まないで下さる?
「どうぞ」
「どうも」
差し出された紅茶に手を伸ばす。口元に持っていくと湯気とともに紅茶のアロマが鼻腔を刺激する。
やっぱり担当変えてもらおう。俺には無理。
多分俺がもう無理。
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