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『ほら、鳴けよ』
あああっ!
もうっ、もう無理。
左手にある携帯。
握り潰しそうだ。
右手にはハンドル。
掴む拳の関節が真っ白になっている。
どしゃ降りの大通り。
真夜中でもバイクや大型トラックがバンバン行き来してヘッドライトが目に痛い。
きつく目を閉じればそこの感覚ばかり鋭くなる。
『腰振れよ、もっと。早くしないと人来るぞ…………噂をすれば、だな』
うっすら目を開くと、滝の雨で光が滲むばかりのフロントガラスの向こうに、ぼんやり人影が見える。
もう、もう、やめろ。
意識が遠くなる。
今まで感じたことのない悪寒とも快感ともつかない震えが背中を突き抜ける。
『腰だけ動かせよ。窓の外からは電話してるように見えるだろ』
せせら笑いながら前も触って来る。
やめてくれ!
俺は男だ。
こんな、ああっ。
目の前がスパークしはじめる。
どんどん人が近づいて来る。
男なのか女なのかすら、わからない。雨のせいで良く見えないのか、頭が回ってないのかすら判断できない。
『誘ったお前が悪い』
俺の腰を掴み大きくグラインドする。
ひいああああ!
携帯を持ったままハンドルにしがみつく。
ビーーーーー!!
けたたましく鳴るクラクション。
着き損ねた手から激しいしびれが走ると同時に、音に驚いた心臓が跳ね上がり、思わず体が仰け反る。
そのタイミングで突き上げられ、俺は
、ああああっ
「……………………あの」
「はい」
「……………………これって………」
「ええ、何でしょう?」
意を決して。
「お願いしていた原稿とどういう関係が」
「大ありですよ、川崎さん」
ねえよ。
目の前の細身のイケメン作家さんが、文机から離れ俺の元に這ってくる。
そのまま膝に手を置かれ、
「今回は純愛がテーマでしたから」
いやだから。
コレノドコに純愛が?
思いっきり不純ジャネエの?
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