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それから彼宅を訪問すること三度。
次の日に行った打ち合わせで幕末の志士達の話で盛り上がり、某有名作家の描いた衆道の話にスイッチ。軌道修正が大変だった。
二度目は原稿の進み具合の確認に行ったところ、江戸時代にあったらしい集団レイプの話で二時間独演会。
「レイプされた男が切腹させられてお家取りつぶしですよ、おかしいですよね」
ハンパなく憤っていたが俺には肝が冷える話。しかも原稿一枚も頂けず。
そして一昨日、三度目の訪問。セクハラというかドンドン二人の物理的距離が縮まっている気がする。……太股までいったな。
勘弁してくれよ。
メールで送ってもらうかな、原稿。ダメだ。彼はそこはこだわりで、目の前確認の人だ。
「ああ、あの事伝わってる?」
思い出したように幸子先輩が手を叩く。
「彼、結構几帳面で」
はい、存じておりますとも。先日シャワー案件伺いました。トイレも大変でしょうね。手洗いしてからじゃないとナニが触れな、いやいや。
「あやふやな資料しかないとすぐ取材に行くのよ。電話一本今すぐ来い、みたいな。それには付き合わないとダメよ。
彼のは大抵経費で落ちるから」
はあ。
「男には嬉しいんじゃない?今までだとホストクラブ、キャバクラ、歌舞伎町、六本木バー、色々」
………ゲイバーって言われたらどうしようか。
「確かに先生の作品はリアリティーがありますよね、描写も丁寧で綺麗だ」
そうそう、と相槌を打たれ雑談を交わしている最中に、胸のスマホが震える。
「はい、川崎です。先生?どう……はあ、取材。えっ?………わかりました。ではそこで、はい、一時に」
はあっ。ため息が。
「どした?」
「噂の君から取材行くとの連絡です。もう行かないと。今日は直帰します」
「いってら」
領収書忘れずに、と言われたがまず出ないんじゃないかな、それ自体が。
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