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結局最終レースだけ馬券を買って、帰りはウハウハ。
先生の単勝買いが18倍ついた。最初、一万出すかなあ、この馬にと思ったが。まあ一度買って痛い目見れば、と好きにさせたらビギナーズラックって奴で当てちまった。
「夕食おごります」
「……ありがとうございます。あ、でもそろそろ原稿」
「今日は土曜でしょ、明日もあります」
……俺は夕飯より原稿の方が嬉しいがな。後一週間で上がるのか?
他の先生方はナンとかスムーズにいってるが、この御仁の分はマジで不安だ。
先生様が換金に行ってる間に一服。
彼の後ろ姿をぼんやり見ていると、いきなり視界を遮るデカい体。ああ、喫煙か。席は譲り合い譲り合い。喫煙者は肩身が狭い。
「火貸してよ」
右隣りにくっつくように座った男のぞんざいな物言いに顔をあげれば、
「……あんたか」
こんなところで会うのかよ。くせっ毛のロン毛を後ろで無造作に結んだ黒グラサンの色黒マッチョ。何処で焼いてんだ?ってくらいに黒い。ライターを差し出せば、
「そっちがいい」
とタバコをくわえ、顔を近づけて来る。
火が移ったのを確認するように煙を吐き出す。
わざと吹き付けやがったな。目に煙が染みる。
唇が言葉を形作る気配を感じて、こいつが何か言う前に、自分の右耳を引っ張る。それを見てサラリと立ち上がり、ジーパンのケツを払いながら親指を立てた握りこぶしを下に向ける。
「サンキュー」
手をヒラヒラ振りながら、大男は人混みに紛れていく。歩きタバコはやめとけ。
「誰ですか?今の」
げっ。
見れば先生が目の前で仁王立ち。
「あ、タバコの火を」
何で俺がしどろもどろに?
それはね、センセの周りにどす黒いオーラが漂っているからさ、フフフ。
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